「神」と「主」

「主」(旧約聖書および新約聖書、固有名詞)=「YHWH」(ヘブライ語)=「ヤハウェ」、「ヤーヴェ」

旧約聖書および新約聖書(マタイ1:20他)における唯一神の名で、ヘブライ語の4つの子音文字「YHWH」で構成され、「神聖四文字」または「テトラグラマトン」と呼ばれます。旧約聖書では、「主」(ヘブライ語ヤーウェ)は、「天地の造り主」、「唯一、真の神」を指します。
ユダヤ人たちは畏敬の念から、「YHWH」という名を口に出すことを恐れ、使うことを遠慮するようになり、「YHWH」は「アドナイ」(=我が主)と置き換えて読むようになりました。このため、「YHWH」に代わって「アドナイ」が「神の名」を表す固有名詞とになりました。これが、ギリシア語訳聖書では、「主」を意味する「キュリオス」が「YHWH」に相当する「神」として用いられました。
これがキリスト教にも踏襲され、「主」「Lord」が「YHWH」に相当する「神」の固有名詞として用いられています(→原文において「יהוה(ヤハウェ)」とある箇所を「主」と訳しています)。

   神=יהוה(YHWH、ヤハウェ)=アドナイ=わが主=キュリオス=主

→創世記2:8
主なる神は、東の方のエデンに園を設け、自ら形づくった人をそこに置かれた。
Now the Lord God had planted a garden in the east, in Eden; and there he put the man he had formed.

「神」(普通名詞)=「エロヒムElohim」(「神」「神々」)

「神」(普通名詞)の原語は「神」または「神々」を意味する「エロヒムElohim」(セム族最古の最も広く用いられた神名El〈エル、元来、「神」「判事」「力」「一切の支配者」、「創造主である唯一の全能の神」を意味する〉の複数形Elohimになっているが、イスラエル人の神を示すときは唯一の神を意味し、単数として扱う)で、異教の神を表す際にも使われています。
→創世記1:1
初めに、は天地を創造された。
In the beginning God created the heavens and the earth.

「主」(新約聖書、固有名詞)=「イエス」=「メシア」=「キリスト」=「救い主」

新約聖書では「YHWH」としての「主」(マタイ1:20他)という意味ばかりでなく、「主」=「救い主」として使われています(使徒言行録2:36b他)。

例えば、「イエスは主である」と言う時、「イエスは、私たちのためにこの世
来られた神であり、神の救いの恵みに私たちを与らせる仲介者、また恵みの契約を保証してくださる方」という意味があります。
→使徒言行録19:5
人々はこれを聞いて主イエスの名によって洗礼を受けた。
On hearing this, they were baptized in the name of the Lord Jesus.
→フィリピの信徒への手紙2:11
すべての舌が、「イエス・キリストは主※1である」と公に宣べて、父である神をたたえるのです。
and every tongue acknowledge that Jesus Christ is Lord,to the glory of God the Father.

※1:あなたがたが十字架につけて殺したイエスを、神は主とし、またメシア(→Messiah、ギリシア語訳が「クリストス」=キリスト=救い主)となさったのです(使徒言行録2:36b)。

【参考】 固有名詞と普通名詞
・固有名詞 人名、グループ名や地名など、唯一無二である特定の対象を表す名詞のこと
→例:「日本」、「イエス・キリスト」など。
・普通名詞 同じ種類に属する全ての事物に適用される名称を表す名詞のこと。
→例:「犬」、「ピアノ」など。