清貧の思想
フィリピの信徒への手紙4:12
貧しく暮らすすべも、豊かに暮らすすべも知っています。満腹していても、空腹であっても、物が有り余っていても不足していても、いついかなる場合にも対処する秘訣を授かっています。

生涯 身を立つるに懶(ものう)く
騰々(とうとう) 天真に任す
嚢中(のうちゅう) 三升の米
炉辺 一束(いっそく)の薪(たきぎ)
誰か問わん 迷悟(めいご)の跡
何ぞ知らん 名利(みょうり)の塵
夜雨 草庵の裡(うち)
雙脚(そうきゃく) 等閑に伸ばす  良寛

自分は立身だの出世だの、金儲けだの栄達だの、そういうことに心を労するのがいやで、すべて天のなすままに任せて来た。いま自分には、この草庵の頭陀袋(ずだぶくろ)の中には乞食(こつじき)でもらって来た米が三升あるだけ、炉辺には一束の薪があるだけ。そういう極限の不安な状態にあるのだけれども、これだけあれば充分、迷いだの悟りだのということは知らん、まして名声だの利得などは問題ではない。わたしは夜の雨がしとしとと降る草庵の裡(うち)にあって、二本の脚をのどかに伸ばして満ち足りている。